城さんの感受性過敏。

菅沼「あれ、今日は城せんぱいお休みですか? 風邪かなあ・・・」
前橋「うん。風邪ではないけれど。お母さんのお墓参りだって」
高峰岸「血が繋がってるほうの・・・?」
前橋「うん、まあね。城さんが学部の入学式で同級生に殴られた話は、医学部全体でも有名だけど、実は失神した城さんを介抱したのが僕でね。恐ろしいことに、学部の入学試験の面接も僕だった」
高峰岸「何、その不吉すぎる出会い・・・!! オレなら、絶対、面接で落とすのに!!」
前橋「まあ、医学部の面接だなんて、特別、頭のおかしな受験生をふるい落とすためのものだからさ、こいつに入ってきてほしくないなあと思っても、表面上はまともだったら落とすわけにもいかないんだよ。ブラックジャックに憧れて医師を目指しています、とか言われたら落とせるのにさ」
菅沼「ああ、無免許医・・・」
高峰岸「で、城のお母さんって・・・」
前橋「うん。で、入学式の日に城さんのお父さんと少し話してさ。うちの娘は他の子供さんよりも少しばかり感受性が特殊なんです。それ以外は、本当に普通の娘なんですよと。娘の紗々は母親が30代半ばで初めて生まれた子だったんですけどね、言葉を覚えると妹が欲しいと言うわけですよ。まあ、それは可愛らしい願いですよね。でも、それをあの子は毎日毎日母親と顔を合わせる度にそれを訴えるんです。子供の言うことだから、閉経という概念もなくて、さらに紗々の母親は閉経が早かったんですね。更年期障害もあって、私にはこの子を育て上げる自信がないと言って・・・」
高峰岸「それ、本気で、姑に言われるより嫌ですよね・・・」
菅沼「育てたくない。そんな子、確かに育てたくない・・・」嗚咽。
前橋「それでも、城さんのお母さんは離婚は思いとどまったらしいのだけれど、まあ、こうね・・・」
ふうと、ため息を吐く前橋教授。
高峰岸「で、結局、再婚したんですか・・・。何気に、すごく愛されてますよね。城のやつ・・・」
前橋「そんな話、聞いちゃったら、もう面倒見てあげなきゃなくなるじゃんか。で、六年後に、研修医をやっている彼女に会った僕は驚愕したね」
菅沼「あれ、城せんぱい研修医やってたんですか・・・?」
高峰岸「まさか・・・!?」
前橋「そうなんだよ。こともあろうことに、研修が城さんを殴った同級生と同じ班分けだったんだ。女の子は女の子同士のほうがいいでしょって、何もその組み合わせにしなくたっていいじゃんか!! 名字が佐井と城だからって、事務的に分けやがって・・・!!」
高峰岸「なんなんですか、そんな横暴が許されるんですか? そいつ、人間じゃないですよ。うわあ、城〜・・・」
菅沼「城せんぱい、かわいそうすぎる・・・」
前橋「で、数ヶ月もしたら、城さんの胃に穴が開いちゃって・・・。入院しているところに、夏に大学院入試があるから僕のところに受けに来なさい、待ってるよ?と」

菅沼「なんかもう本当にありがとうございます。城せんぱいに代わってありがとうございます」
高峰岸「そうか、きっと気を遣う城のことだ。待ち望んだちびっこたちのことを思って、お父さんには弱音を見せられなかったんだな。健気だ、健気な娘だ!!」
菅沼「城せんぱいは、立派なお姉さんです!!」
前橋「うん、そうだね」