混ぜるな危険、栄と菜苗。

七夕「ちょっと聞いてよ、お父さま!!」
綾綺「どしたん?」
七夕「菜苗が、栄に向かって『うるせえよ、天才児が』ってめっちゃきれてた〜」
綾綺「……。ついに心の声が」
七夕「まあな。栄が天才児だってのは、昔から思ってただろうけど。もうなんなの、ふたりして混ぜるな危険だよ」
綾綺「うん、もう混ぜへんほうがいいかもな」
七夕「でも、小学校からずっと同じクラスなんだろ、諸事情で」
綾綺「そう、諸事情で」
七夕「いとこだからって、栄も大変だよな」
綾綺「もう、あれや。菜苗くんが高校入って、研修医も後期に入るくらいまで七夕会うのやめはったら?」
七夕「……。そんな十年も会えないのか。叔母さんと姪なのに!!」
綾綺「せやかて、七夕、栄くんと結婚しはるんやろ? で、七夕もどっちかというと天才肌やし〜」
七夕「ああ、菜苗は努力の人って感じだもんな。女子の一部って、なんか独自の勉強法を生み出すよな。そして、大概、無駄。時間の無駄」
綾綺「……。圭一くんとその父親は、一回見たら覚えちゃうという特殊能力の持ち主なのに。酷い、酷過ぎる…」頭を抱える。
七夕「そ、それは、確かに酷過ぎる…」
綾綺「七夕。菜苗くんには、このこと内緒やで?」
七夕「七夕、言わないよ!!」
綾綺「あ、あれや。これは、言わはってもええで。叶恵くんは、高校時代、物理と化学で赤点取ったけど、見事、医学部に現役合格☆ したって」
七夕「おおう、それは希望が持てるお話だな!! 菜苗、喜ぶかな」
綾綺「ああ、でも、結局あれか。それも、圭一くんの教え方がうまかったからどうにかなったってことで」
七夕「駄目だ。菜苗、勉強法を変えないと駄目だ」
綾綺「あ、でも、化学はほら。化学バカが居るからな」
七夕「もうねえ、菜苗は浪人してもいっかくらいに考えたほうが逆説的によさそうじゃない? 肩の力抜けてさ」
綾綺「ああ、うん。それは、思うかも。予備校代くらい、竹乃進が出してくれはるから大丈夫やってな」
七夕「もっと根本的な話をすると、もう医学部受けるのやめてほしいくらいだけど。もう七夕が医者になるから、菜苗は女子大で文学部か家政学部でも入って、一回ぐらいキャピキャピしてみればいいと思うよ、本当」
綾綺「いや、それ本人に伝えたら、七夕、確実に殴られるからな?」
七夕「だから、七夕だって恐くて言えないよ」
綾綺「仕事人間から仕事取ったらろくなことにならんからな。定年退職後の患者さんがそらもうようけ来るわ、来るわ…」遠い目。
七夕「りあるな話だな。というか、菜苗はすでに仕事人間確実なのか…」
綾綺「うん、仕事できるようになったら、情緒も安定しはると思うけど…」
七夕「菜苗の情緒が安定してくるの、二十代半ばか…。遠いな…」
綾綺「うん、遠いな…」しんみり。