解剖実習にて。

前橋教授「じゃあ、何か質問のある人〜?」
朝霞  「はい」手を挙げる。
前橋教授「どうぞ」
朝霞  「先生、僕、解剖しなくていいですか?」
クラス全員「え、えぇ〜っ!?」



浜太朗 「あれは、未だに語り継がれる伝説やからな〜。前橋教授が毎年、最初の時間に話してはるらしいで」
朝霞  「だって、献体された方が可哀想だろ!!解剖されるのかと思いきや、ご遺体損壊て!!」
皋   「朝霞、前橋教授にも同じこと言ってたよね」



前橋教授「え、ええ…!?」
浜太朗 「前橋教授、困ってはるやないか…」
朝霞  「前橋教授、考えてもみて下さいよ。養老孟司先生もおっしゃっているじゃあないですか。解剖は身体を調べる目的で解剖しているのだから怖くはないって」
前橋教授「ああ、*1『解剖学教室へようこそ』?あれは名著ですよね」
朝霞  「まことに遺憾なのですが、僕が解剖しようと思っても不器用すぎてご遺体損壊にしかなりません。スプラッタです」
前橋教授「そ、そんなに不器用なの!?」
朝霞  「大丈夫です。僕、内科にしか行きません!!というか、むしろ内科にしか行けませんから!!だから、解剖は必要ありません!!」※涙目で。朝霞くんは自分が器用だったならば脳神経外科に行きたかったのです。
米谷  「相変わらず、熱く語る子だな〜。朝霞くんは。あはは〜」
美稲  「米谷さん、あははって!!」※米谷さんと美稲くんは同じグループです。
米谷  「ちっ、うるせぇな」
美稲  「ま、米谷さん!?いつもの温厚な米谷さんは一体どこに!?」
米谷  「みぽりんが!!うちのみぽりんが!!ぐぁーーっ!!」頭を抱える。



(米谷さんの回想)
「初めて妹を本気でぶん殴ってやりたいと思った…」
地元、大阪の大学を卒業した米谷さんはこれまた地元の会社に就職。ようやく仕事にも慣れて、毎日の業務に充実感を持つようになった頃…。会社に両親が訪ねてきたのだ。
「どうしたんですか?お父さん、お母さん」
「湖水。お前、会社辞めてくれ」苦虫を潰したような顔のお父さん。
「な、何故ですか…!?」
「みぽりんが、美穂が医学部辞めたって…」お母さんは泣き崩れる。
「はぁ〜ッ!?」
米谷さんには歳の離れた妹が居ったとな。妹の美穂ことみぽりんは大変優秀なお子様で「湖水お兄ちゃんが看護婦さんで〜、みぽりんがお医者さんねっ♪」とか言っていた。その度に、兄は「何で、オレ、看護婦さん決定やねん!!てか、男でも看護婦さん!?」と冷静につっこんでいたそうな。
そんなことを回想しているうちに、両親は息子の上司に泣きついていた。で、上司は「ま、まあ、米谷もお父さんとお母さんのために頑張りや…」とか言わされていた。「ちょ、何で、僕の目を見ないんですかっ!?今度のプロジェクトには米谷が必要だって言ってくれたじゃないですかぁーっ!?」



米谷  「そもそもみぽりんが医学部をドロップアウトしたのは、この人体解剖が原因なんや。あいつ、『みぽりんは今日から普通の女の子に戻りま〜す♪』とかふざけたこと言いやがって。ああ、思い出したら腹が立ってきた。今からでもぶん殴りに言ってやろうかなっ☆」
美稲  (ま、米谷さんがさっきから何かブツブツ言ってはる。…怖ッ!!)ガクガクブルブル。



朝霞  「なら、僕がどんなに不器用か高校時代の話をしましょうか?」
前橋教授「え、えぇ…!?」
朝霞  「僕は、マッチに火をつけられなくて泣いたことがあります!!第一、マッチだなんて今の時代にナンセンスですよ。あんなの、僕の中では赤燐と黄燐のひっかけ問題に使うくらいしかないですよ!?」
前橋教授「ああ、『黄燐』を『きりん』って読む人いますよね。ふふっ」
朝霞  「あまりにも不器用だったので、実験では常に指示を出すだけに徹しましたね」

*1:解剖学教室へようこそ (ちくま文庫)超おもしろいです☆