噂の学内留学。

城「おじいちゃん先生、紗々の耳かきして〜」
松本「おう、よしよし。こっちにおいで」
菅沼「耳かきとな・・・!」

前橋「うん。城さんのお母さん、病みすぎてて城さんの鼓膜に穴あけたことがあるとかないとか・・・」
菅沼「そんな経験がありながら、まだ他人から耳かきをしてもらう度胸があるなんて・・・! マジですげえ」
高峰岸「怖い、耳から出血、痛いよ・・・。故意・・・、じゃないですよね? 不慮の事故ですよね?」
前橋「さあ、どうだろ・・・?」
菅沼「そこは、事故だよって言って下さいよ!! 頼みますから」
前橋「ああ、そうそう。息子さんの衛市さんどうしてます?」
松本「はあ? 教授会で会っとらんかいね?」
菅沼「あ、病理学の先生が確か松本先生だった」
前橋「僕、思うんですけど、名前が衛市だったら、病理学じゃなくて公衆衛生を専門にして欲しかったなって。市井の衛生はオレに任せろ! 的な。ほら、名前に哲学の『哲』がついてるから、哲学専攻だって学生さんも多いと聞きますし」
松本「前橋くん、わしは未だに君ほど、男前でかつ執着心の強い者を知らんよ。粘着質が過ぎて、恐怖を感じるのだ」
前橋「わあ、褒められちゃった☆」
高峰岸「どこがっ!?」
城「でも、おじいちゃん先生。おじいちゃん先生のお名前は、源右衛門なのにどうして息子さんのお名前は衛市さんなんですか? 取るなら、源のほうじゃないですか?」
高峰岸「それが松本先生の考え得る精一杯の今風の名前だったんじゃないか・・・? 江戸時代生まれの考える」
松本「馬鹿にするな、わしは大正生まれじゃ! 自分こそ、蓮汰狼だなんて、とっちらかってる名前してるくせしやがってからに!!」
前橋「まあ、そういう僕も何を隠そうと、松本センセイの古風なお名前に興味を惹かれたくちですからね。本当は、法医学に行くか病理学に行くかで迷ってたんですよね」
菅沼「病理学だなんて、前橋教授っぽくないです・・・! セクシーさのかけらもない!!」
城「そうです、私も菅沼くんと同意見です!! これは私の勝手なイメージですが、後者は暗い子って感じがします。だって、法医学ならよくドラマになるけれども、病理学なんてもうなんかあれじゃないですか」
高峰岸「実は、それ、オレも思ってた・・・」
衛市「ひどい言われよう!!」
松本「あ、衛市・・・!!」
前橋「ああ、確か、学内留学の件で相談に行くからとかなんとか言っていたような・・・」
菅沼「学内留学・・・? なんですか、それ。大学間とか学部間のコンソーシアムみたいなものですか?」
松本「ああ、おほん。昔からあるんじゃが、驚異的な解剖テクニックが授けられる法医学教室の特別解剖学内留学というものがな・・・」
高峰岸「実態は、ただの人身御供ですけどね・・・」
城「うん、でも、解剖が上手になるのは本当なんだよ。大抵、それで新人外科医が立派に成長して帰って行くんだ」
前橋「そうなんだよ。テクニックが身につくのだけは、本当に本当だからね? 例えば、心外だからって心臓のことばかり見ていればいいてわけじゃあないからさ。でも、全身の解剖なんて、学部の二年のときにやるだけだろ。もう、忘れてるだろうからね」
菅沼「ああ、それで、この研究室って存続していけてるんですね。よく解りました」
以下、読了。

海月姫(9) (KC KISS)

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