登山、してない!!

菅沼「うう、また寝られなかった…」
前橋「本当に心労だらけだね、菅沼くん」
城「はっ、映画!? 昨日、みんなで観ようねと約束した映画!? もしかして、感動しすぎで寝られなかった!?」
高峰岸「オレだけ、約束してないんですけど…?」
前橋「いやあ、運がよければ高峰岸くんも観るかもしれないから、わざわざ言うこともないかなあなんて☆ 昨日、テレビでやってたやつだよ?」
高峰岸「観てません」
城「あやー、運が悪かったね。高峰岸さん」
菅沼「僕が女の子だったら…」
前橋「うん、超可愛いと思う。すげえ美人だと思う!!」
城「セーラー服!! 古風なセーラー服がいい!!」
高峰岸「話、聞いてやれよ」
菅沼「僕が女の子だったら、山岳部所属の男とだけは付き合いません」
前橋「菅沼くん、それ、昨日の映画、全否定だよね!?」
城「そんな、山が嫌いならば観なければいいのに!!」
菅沼「違うんです。そういんじゃないんです。ほら、僕、小脳が弱いでしょう。だから、小学校の遠足で登山しに行ったのに、僕だけ登山してないんですよ」
前橋「ああ、それは仕方ないよ…。人、それぞれできないことってあるからね」
菅沼「ただ坂道を歩くだけならがんばればできるんですよ。でも、がけみたいなところ、鎖をつかんで登っていかなきゃならないところがあるらしくて。いや、もうただの伝聞ですけど。担任が、『登れないよね?』って聞いてきたから、『はい、無理です』って。だから、クラスの集合写真が他のクラスは山頂で、僕のクラスは中途半端なところなんですよ。山を登りに行く遠足なのに!! でも、登れない子がいるのに、山頂で撮ったら差別になるからって!! なんかふもとのあたりで、養護教諭とお散歩してただけなんですよ、僕は!!」
高峰岸「なんだ、その哀しいお話は!! 先生が気を遣ってくれたのに、なお哀しいぞ!?」号泣。
前橋「うう、菅沼くんが神経症になるのも、無理からぬ話だ…」
菅沼「他にも、行進の練習で、国旗とか校旗とかに向かう階段使うとか!! 阿呆ですか!? また、僕は参加してないんですよ!? 本当にみじめですよ!!」
城「もういいよ…。全部、忘れてもいいんだぜ。うん、忘れろ!!」涙目。
菅沼「僕は、もうめんどくさいので、『足が悪い』んだと説明するようにしております。しかし、たとえば、本当に筋力がなかったら歩けもしないわけですよ。実際に、同じ小学校に、補助器具をつけて、己の足で歩く女の子がいたのです。失礼じゃあないですか。でも、なんて説明すればいいかわからない…!! 中学校では、階段で這って歩く男の子を見守る養護教諭に『ごめんね』と言わしめて、手すりを譲ってもらったり!! 運動部の子なのに、なんかの病気で運動できないのをうらやましいと思ってしまった自分を恥じてしまったり!!」