精神科秘伝、粉コーヒーの入れ方。

コンビニ。
安曇野「あ、美稲くんだ」
美稲「安曇野さん、おはようさん。なんや最近よう会うなあ」
安曇野「……。私、コンビニコーヒーだなんて、もうおとろしくておとろしくって」
美稲「は? 何が?」手許のコーヒーに目を遣る。



お外。
安曇野「美稲くん、精神科でしょう。精神科でオーベンから一番最初に習うことといったら、粉コーヒーの入れ方じゃない」
美稲「うん、正直、ドリップのが美味いけども」
安曇野「ちゃんと水でといてから、お湯を入れれば香りはものすごくするじゃない。わがままねえ」
美稲「まあ、言いたいことは解るけども。お茶とお花があれば、患者さんも話しやすいんやでってことで」
安曇野「患者さん、カフェイン中毒だったらどうするのかしら」
美稲「うん、あのな。せやったら、コーヒーはよう出さへんから。コーヒーのセットも隠しておくから」
安曇野「でも、精神科秘伝の入れ方だとよおく匂うわよ? 部屋中、コーヒーの香りするじゃあない。そのカフェイン中毒の患者さんが来るからってだけで、前の患者さんはドクターとのコーヒータイムを邪魔されるわけよ。酷くない?」
皋「うん、酷い!!」
美稲「い、いつのまにか、皋が居る…」
安曇野「果枝つんは、いつも、いつの間にか居るわよ? ああ、素敵、血の匂いがするわね」
皋「え、シャワー浴びてきたんだけどなあ。ぶしゃあーって出てたからなあ」
美稲「うん、まだ血ぃついてはるで?」
皋「でも、ごはん食べないと今度は私が大変なことに」
安曇野「美稲くんなんて、暇よね。精神科は患者さんと飲むから粉コーヒーいっぱいあるくせに、わざわざコンビニコーヒー買いに来てるのよ」
美稲「いいんです。オレの気分転換です」
皋「美稲。外科なんか、コーヒー飲みたかったら、自販機で買ってこいだよ? 粉ですら入れる暇がないのよ。解る? ねえ、解る?」
美稲「ちょ、揺らさないで、こぼれるから!!」
皋「せせちゃんなんか、外でコーヒー買ったら絶対こぼすから、恐くてコンビニコーヒーだなんて買えないのよ!! この器用さん!! せせちゃん、外科なのに協調運動障害なのよ!!」
安曇野「そうね、おぼんでお茶だの味噌汁だのこぼさないで歩けないの、協調運動障害だったのよね。目茶苦茶ショックだったわ」ずーん。
美稲「え、でも、安曇野さん、解剖で前橋教授に褒められてなかったっけ?」
安曇野「まあ、それはね。せせ、くなたんと同じ班だったでしょう。他の人もなんだか、あまり器用ではなくて、だんだんくなたんの分のしわよせがせせ一人に任され気味になってきてね。うん、そう、つまりは練習量が人より多いというだけのことよ」
美稲「あ、ああ、せやったんかあ…」
安曇野「もう、みんな内科行ったわね。せせ以外、みんな内科。内科行ったところで、注射しなきゃなんないのにね。特に、研修医なんて」
皋「……。朝霞、大丈夫だったのかな」ぼそり。
美稲「ああ、思い出す。オレ、朝霞の注射の練習台だったわ」
安曇野「もう、美稲くんの腕、あざだらけだったものね」
美稲「朝霞以外にも、姉ちゃんと妹もな」
皋「大変だね、美稲も」
安曇野「美稲くん、注射の練習台ってバイトにもなってるのよ。本来、お金とってもいいものなのよ?」
美稲「うん。知ってる。でも、きょうだいと親友からは、よう取られへんわ」
皋「医学の進歩に尽くしてるんだね、美稲!! 素敵!!」