雪原を舞う狐。

雪原を舞う狐はただ無聊を愛す。
狐は、果てのない雪原に遊び暮らしている。
狐は、いつだって雪を踏みしめるので、音の在るを知る。
狐は、他の動物が在るのを知らない。
それだから、本当を知る術もない。
果たして、狐は本当に狐であるのか。
本当を疑うときりがない。
想像してみて、気づくと凍った水たまりの中にいることもしばしばであった。
そういうときには、大概、足下が閉ざされてしまう。
身動きができなくて、冷たさが底から這ってくる。
甚だしい暴力に、狐は怒った。
どうして、狐が狐であることを疑ってみただけで、こうも辛い仕打ちに遭うのか。
そこで、狐ははたと気づく。
はじめから、狐は狐なのだ。
それなのに、狐であることを捨ててしまおうとした。
他の動物から、狐は狐だと言ってもらえないだけで、涙が狐を苦しめるのは当然だ。
流れた涙は、狐の足下にたまり、狐の姿を映し出していたはずだ。
哀しみと嬉しさは同じところにある。
嫌になって、泣いてしまっても、答えはそこにあったのだ。
何度も自分を疑っては泣いた狐。
いつの日にか、水たまりに映った狐の姿を発見するだろう。
そうして、狐は狐であることを知り、雪原の美しさをも知る。