城さんとさくらんぼ。

城「うあーん、もう、やめてよぉー」しゃがみこんで、頭を抱えている。
高峰岸「うるさいっ、悪い子を叱って何が悪い!!」
(あれ、見覚えのある人が…)
菅沼「あの、先輩がた…。何をしていらっしゃるのですか?こんな道端で…」
城「菅沼くん〜」涙目。
高峰岸「ああ、菅沼か。訳は研究室に移ってから話そう」



IN研究室。泣きじゃくる城の手を菅沼くんが引きやってくる。高峰岸はぷんすかしている。
前橋「あれ、皆さんおそろいで。ん、どしたの?」
菅沼「あっ、いっつもコーヒーなのに、今日は緑茶だ!!」
前橋「あー、これ?知り合いからもらったんだ。宇治のお茶☆」
菅沼「へー、そうなんですねー。いいなー、やっぱり、お茶といったら宇治ですよね☆」
高峰岸「ぬあーっ!!」前橋教授と菅沼くんのほんわかトークに耐え切れず、壁を殴る。
城「公共の建物、殴ってんじゃねえよ!!」物は大切に。
前橋「そうだよー、建物も傷むし、高峰岸くんだって手痛いでしょ?」
高峰岸「うっ、うう…」両手で顔を覆う。
菅沼「ああ、そう言えば、なんか怒ってましたっけ…?」
城「……」明らかにみんなから目をそらす。手にはさくらんぼがたくさんつまった透明な小さいバケツが。
菅沼「さくらんぼ…」
前橋「泥棒、したんだ…?」
高峰岸「俺は、俺は、この研究室から犯罪者が出たのが悔しくて悔しくて…!!」
城「ち、違うもん…!!これ、大家さんの所有物であるさくらんぼの木から取った…」
高峰岸「嘘吐けぇ!!この研究室に所属している人間が大家なんて名前だけの知り合いである赤の他人とそんなに親しい訳ないだろうが!!実質的に、『大家=知らない人』だよ!!」
菅沼「大家さんを他人と言い切るんですね…」
前橋「んー、考えてみれば、大家さんなんて引っ越しのときくらいしかわざわざ会話らしい会話もしないしね」
菅沼「僕も、大家さんらしき人を見かけたら、避けて通ります」
城「ち、違うって。だって、さくらんぼの種植えたの私だから」
高峰岸「さくらんぼ食っててめんどくさくなって、そこらへんに種吐き捨てただけじゃねえか!!そんなにもりもりさくらんぼの実がなるほどでかくなるのに何年かかると思ってんだ!!」
前橋「まあまあ、いいじゃないか。さくらんぼ泥棒くらい可愛らしいものだよ。だって、考えてもごらん?高校生にもなると学校で携帯を充電する電気泥棒が出てくるだろ?あれも、値段は微々たるものだけれど立派な窃盗罪になるんだよ」
高峰岸「いや、それ、結局城がさくらんぼ泥棒であることを認めてますよね?」
前橋「大丈夫だよ、城さんは黙ってれば可愛いから。終始、黙りこくって涙のひとつでもこぼせばバカな男なら簡単にだまされるに決まってるから」
城「ああ、私が悪いのに、泣いたら許されたことっていっぱいあります。ま、本当に哀しくて泣いてたから嘘ではないんですけどね」
前橋「そうそう、僕らみたいな人間関係が不得手な人は、それだけで生きにくいんだから使えるものはなんでも使えばいいんだよ」
菅沼「さすが、前橋教授です。いいこと言いますね」
高峰岸「なんか、すっごく複雑な気持ちなんですけど…」
城「よーし、じゃあ、高峰岸さん以外でさくらんぼ食べちゃおう?」
菅沼「あー、僕、日本のさくらんぼも好きだけれどアメリカンチェリーも好きなんですよ。一時、日本全国の体育教師が全員死ねばいいのにとか、運動会の日に大型台風でもくればいいのにとか、本気で思ってたんですけど、お昼にアメリカンチェリーが食べられるということだけを望みにして頑張っていたものですよ」
前橋「…今度、アメリカンチェリー山ほど買ってきてあげるよ。そう言えば、山形大学に行った高校時代の友人、僕が生八つ橋買って送ってやったのに、結局さくらんぼもラ・フランスも送ってこなかったっけ。人って、嘘つきだよね。ホント☆」
城「あ、ねえ、今度さくらんぼ狩りとか行きません?別にさくらんぼじゃなくても、いいんですけどー。遠足とか子供会で行ったなー、懐かしいなーって」
うふふあははなさくらんトークが続く。